ジャニーズ、あの頃
ジャニー喜多川氏の性加害問題。芸能界、音楽業界にたずさわってきた人達は過去に、今に、そして未来に何を思うだろう。
僕も少し振り返ってみます。
ジャニー氏性加害 噂だけのはずがないのに・・・
ジャニー氏のセクハラが東京高裁で事実上確定した2004年よりもまだもっと前、大学生だった僕は某大手レコード会社でアルバイトしていました。音楽業界ど真ん中の職場です。いろんな噂があふれるほど渦を巻きまくっています。もちろんガセな話もあったでしょうが、その噂現場を知る人が多数いたり、当事者がそれを隠したりしない場合は、それはもはや噂ではなく真実として周囲は認知しています。ジャニー氏の性の対象が同性であることはよく知られていたと思います。でも、だからどうこうということではなく、ただそうなんだなって感覚だったかな。大げさなゴシップとも思わないし、別に興味もないし、僕はただなんとなくそれを認知していたという感じです。音楽業界にいる人たち、芸能関係者らも、当時はまだ僕と同じ程度の感覚だったのではないかな。今にして思うと、さすがにジャニーズ事務所の中にはもうその頃から性加害の事実を知ってる人もいたのだろうね。
その後、僕は作詞家デビューするわけですが、あるタレントさんからジャニーズの合宿所などで頻繁に起きているという出来事をきかされました。それは次のようなものでした。
ジャニーズJrたちは一つの部屋で雑魚寝するわけなんだけど、ドアに一番近い場所で寝るとジャニー氏が布団に入ってくるか、室外に連れていかれてしまう。みんなそれを分かっているから寝る場所を決めるために(ドア近くで寝たくないために)いつも殴り合いの喧嘩になる。
これをきいても、にわかには信じられないわけ。週刊誌が性加害を発表し始めたり、もちろん2004年よりも前のことなので、僕なんかにはジャニーさんのそんな行動に対する予備知識さえない頃だから。さすがにそんなことはないんじゃない?と。話してくれた人物を疑ってるわけでももちろんないんだけども・・・
性的虐待とか性暴力、当時の言葉でいうとレイプとか、そういう犯罪って、できるだけ誰にも知られないようになるべく隠密に、陰湿に、密かに、他者にバレないように行うのではないかというイメージが先行してしまって、他に人がいる周知の状態でそんなことをするだろうか、はたしてそんなリスクを恐れないバカな人間がいるだろうか、とどうしても考えるわけだよ。そんなことするわけぁないだろ、ってね。ジャニー氏としては「良い仕事」という見返りも用意してあるし、グルーミング気分だから、バレるリスクなんて考えてなかったんだね。そんなことにさえ考えが至らなかった当時の無知な僕のほうがよっぽどバカでした。
けっきょく、そこには触れないでおこう、と思ったんだと思う。アンタッチャブルでいようと。事なかれ主義を決め込んでしまいました。仕事上(まだ売れてもいないのに)の自分勝手なジャニーズへの忖度も働いてたよね。恥ずい話だね。きっともうその頃の時代には、業界のすみっこにいるようなちんけな僕でさえ聞いていたくらいだから、音楽・芸能の主戦場にいる多くの人たちはもっと詳しく真実を知り始めていたと思う。みんなでアンタッチャブルにしていたんだね。最低だね。
ヴォイスこそ勇気
僕が歌詞を担当したジャニーズのアーティストがほとんどメリーさん担当だったこともあって、僕はジャニーさんと直接お話ししたことはない。ただお見掛けしたことはあり、印象としては小柄で地味で目立たないおじいさんというイメージ。性暴力、性的虐待をするような方にはみえなかった。しかしながら、もし裁判ですべての罪があきらかにされていたら、彼は日本の犯罪史上稀にみる大性犯罪者と呼ばれていたかもしれない。何十年もの間ずっと犯罪に手を染め続けてきた可能性があるのだもの。誰もとめなかったんだよ、誰一人も。恐ろしい話だ。
彼の犯罪をもっと早く食い止めることは可能だった(最低でも2004年には。それ以前だって世間に対して内部告発は何度かされていたわけだし)。それができなかったのは、いや敢えてそうしなかったのは、彼の親族、ジャニーズ事務所、事務所に少しでも関わったすべての音楽業界の人々、芸能界、マスコミの人間、当時の政界の人々だ。僕だって、何も知らぬ存ぜぬでやりすごしてきたのはジャニーズ事務所への忖度がきっとあったからだ。情けないことに、誰も彼もが仕事や夢や目的や金などのために正しい心を売ってしまっていた。僕も、みんなも、本当に弱かった。
ジャニー氏から被害を受けた方々が声をあげている。今の彼らは本当に強い。彼らはこの日本のエンターテイメント業界を、きれいな明日へと、よりよい未来へと変えようとしている。未来ある子供たちへの性被害をなくそうと頑張っている。僕らは見て見ぬふりをしてきた過去を反省し、彼らを支持し、応援していくべきだ。彼らの心と体の傷が少しでも癒えますように。