さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

明日のパン

明日のパン

作品タイトルのお話をちょっと

 

タイトル、このやっかいで愛しきもの

詞でも小説でもブログでも、まずタイトルを決めてから書き始めようとすると、いつも最初にふっと思い浮かぶタイトルが「明日のパン」だったりする。もう何十年も前からずっと心の中にあるタイトル候補の一つなんだけど、いまだかつて詞にも小説にもエッセイにも一度も登場したことがないどころか、このタイトルで書き始めようとしたことさえないから、おそらく僕の中にある「客観性計測器」が無意識にNGを出しているのかもしれない。なぜだろう? 地味過ぎるのかな。安易に過ぎるとか? けど、そんな悪いタイトルとも思っていないから、(まだ一度も検索してみたことはないけど)どこかの誰かの短編小説や小規模映画、アルバムの中の一曲とかには使われているんじゃないかなあ。まあ、短編や小規模なんてあえて付けちゃってること自体、地味地味路線を認めちゃってるけどね😓

若い頃、女の子と一緒に住んでた時期があった。彼女とスーパーへ買い物に行く。買い物かごがいっぱいになり、さあレジに並ぼうという頃になると、「あっ、明日のパン、明日のパン!」と言って売り場へ駆け戻る彼女を見送るのが常のようになっていた。その度に、なんでいつもギリまで買い忘れんだよ、なんでいっつもパンなんだよ、って僕は面倒くさい気持ちになるのだけど、その反面、「こういうのが幸せってヤツなんかもしれんなあ」って胸がちょっぴりあったかくなった。だって、僕らには明日があるっていうことだもんね。パン(たぶん明日の朝ごはんということなんだろう)という何でもない名詞にさえ、やわらかな朝日に包まれるような幸福感が重なった。

「明日のパン」をタイトルにするなら、物語の視点は若いカップルでなくても、老夫婦でも、4人家族でも、性の多様性パートナーでも、孤独な独り暮らしでも、ペットの視線でも、なんならパンそのものからみえる景色でも、たくさんのストーリーが描けると思う。幸せでなくても、不幸せからの物語でもかまわない。それらを組み合わせれば何千、何万通りものストーリーがありそうだ。このタイトルには可能性が多すぎて、自分だけの物語に昇華できないまま僕の中でずっと揺蕩ったままなのかもしれない。

 

 

音楽でも出版物でも、創作の現場では、入稿間際までタイトルが決まらないことなど多々ある。楽曲制作を例にとると、歌詞の第一稿でタイトルが決まっていればよいけれどとりあえず「仮タイトル」を付けて歌詞内容の直し作業へと進んでいくことも多い。メロディーの修正、アレンジ作業、歌詞の数度にわたる直し、ボーカル録り、ミキシングと、インストアに向けて作業工程は着実に進んでいくのに最後の最後まで「仮タイトル」のままで、おい、どうすんだよタイトル! って切羽詰まってしまうこともよくあることだ。関係者の誰もがタイトルの重要性を理解しているからこそ起こる事態。作り手側もみな必死だし真剣だからね。それくらいタイトルって難しく、重要なのだな。

旧ジャニーズグループの代表曲ともなっているデビュー曲の詞を僕は描かせてもらっているのだが実を言うとそのタイトルは僕が書いたものではない。悔しい話だけど良いタイトルが浮かばなかった。プロデューサーがレコード会社社員から小さな公募的にタイトルを集めたところ、その中に良いタイトルがあった。詞曲のイメージにしっくり合う素晴らしいタイトルだった。僕的には本当に情けなく悔しいけれど、作品が良くなることが何よりも大事なことなので、よかったと思っている。

某有名女性作詞家はディレクターとの最初の打ち合わせの際に「タイトル集」を持参するときいた。そのタイトル集の中から、当該アーティストとメロディーに合うタイトルがみつかれば、それを元にスタートをきることができる。全員の意思とイメージの統一が図れるので、後に詞を提出したときに「こんなはずじゃなかった」というような事態も大幅に減少するだろうし、全体の作業もスムーズに進むだろう。また、今回の打ち合わせでは使えるタイトルがないとしても、「このタイトルどうですか?」と次回の楽曲や他のアーティストへのプレゼンもできるので、「タイトル集」を作っておくのはとても理にかなっていると思う。確かに彼女の作品にはタイトルがキャッチーなものも多い。素晴らしいと思います。

さて、この記事を読んでくださった方の多くはブロガーさんでしょうし、作詞や小説やマンガなどのクリエーターさんもおられるでしょう。どうですか、「明日のパン」で創作してみません? いろんな物語が描けると思うんですよね。あなたが描く「明日のパン」に触れられたら僕は幸せだなあ。もしクリエイトされたらぜひリンク張らせてください。

明日のパン、あとでパン屋さんに買いに行こっと。息子が買ってくれた素敵なトースターがあるんすよ😊 あ、そうだ、あれも物語になるなぁ。