さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ🎵

フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ🎵

アオハルをこじらせていた頃のフレッシュの、お話。

 

 

うふあはカップルと渋谷へ

下北沢駅で小田急線から京王井の頭線に乗り換えて、まるでモテ期がやってこない大学生の僕とA君は、モテたらきっとめっちゃ楽しい街なんだろうけど、モテなくたってきっと何かちょっとくらいは楽しいこともあるかもしれないじゃないかという淡い期待を胸に、アオハルの熱にうなされるように夕刻の「渋谷」へ向かっていた。

各停の電車はほどほどの混み具合。ドア横の手すり際に、やたらラブラブいちゃいちゃオーラ全開で抱き合っているカップルがおった。

おそらく周りの乗客なんか見えちゃおらんのだろう。ボクタチ広いお花畑に二人きりだね、うふふ、あはは、うふふふ、あははは、楽しいね、幸せね、うふふふふ、あはははは、てな雰囲気で、二つの体がいつか溶けて混ざっちゃうんではないかというくらいピッタリくっついて夢見がちな笑みを交わしておられる。

ヤバいな、と僕はとっさにA君をみた。案の定その顔がぴくぴく引きつっている。A君の20年近い人生において、ただの一度だって、うふふ、あはは、なんて体験はないわけで、そういう行為への憧れが強すぎて、この手のカップルに対しては精神的ジンマシンが現れちゃうのだ。

わかるよA君、僕だって、うふふ、あはは、うふ、あは、ってしたい。できることなら女子とキャッキャ、キャッキャとはしゃいでもみたいさ。そのために僕らは渋谷へ向かっておるのではないか。まあ、落ち着いて行こうや。と彼にテレパシーを送る。アオハルをこじらせている者同士だけに使える超能力は、きっとある。

うふあはカップルはますますうふふしながら時折あまーいトークも交えながら調子よく電車に揺られている。A君は無言で車窓の外をにらんでいる。きっと僕のテレパシーが届いたのだろう。同類の超能力ってすごいぜ。

電車のアナウンスが「次は神泉(しんせん)、神泉」と渋谷駅の一つ手前の駅名を告げた。そのとき、

「神泉に住んでる人はみんな新鮮なのかなぁ💓💞」

うふあはカップルの彼女が、うふふ感満載な表情で子猫ちゃんが甘えるような溶ろけそうな声で彼氏にささやいた。

この世が終わるようなひどいダジャレだった。ああ神様、愛の元では人間は何を言ってもよいのですか。僕はかすかに天を仰いだ。

そこにA君、もう我慢も限界だったのだろう、いきなり僕に向かってこう言った。

「生きてんだからなあ、生きものっつーもんはみーんな新鮮だよな!!」

 

いや、僕に言うな、僕に

それ、僕に言う? すぐそばにいるウフアハ彼氏に聞えよがしにして僕に言う? まあ、直接イチャモンつけて険悪になるよりはましか。いやいや、もう充分険悪な雰囲気だけどな。僕はなんて答えりゃいいのさ。うふふって笑おうか? それもどうだかだよな。とテレパシーを送ってみたが、今度は届かないようで、A君は怒った顔してただ僕をにらんでいる。ターゲット違くない? やっぱ超能力なんてないんだな。

神泉と渋谷の間は近く、そうこうしているとアッという間に渋谷駅に到着した。

ドアが開き、降り際に、ウフアハ彼氏は僕をチラッとみたあと彼女に向かって、「新鮮って、イキイキとしてるって意味もあるからねー」と肯定感あげあげで言った。確かにそう言われればそうかもしれん、と僕も思う。でも、それは僕をみてから言うんじゃなくて直接A君へ言えばよくないか? なんだか僕がうまく言いくるめられたみたいじゃないか。なんだこの敗北感。まったくどいつもこいつもだな。

目の前に夕闇に包まれた渋谷のスクランブル交差点が広がる。おびただしい人の群れ。ここにくるといつも勇気がわいてくる。なあA君、世の中にはこんなにも人がたくさんおるんだよ。なんとかなるよ。幸せには伸びしろしかないわ👍