さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

僕の「ごめん🙇‍♀️」は自販機の下(前編)

僕の「ごめん🙇‍♀️」は自販機の下

謝りたかったのに謝れなかったすべての不器用さん達へ

 

あのとき言えなかったごめんなさい

「ちゃんと見張っちょけよ」

僕はN君へ言う。

「わかっちょるわい」

N君は、僕のかがんだ背中を周りから隠すように、チャリンコを僕のすぐ傍に停めた。

「どうや? 手ごたえは?」

N君が周辺を見渡しながら興奮気味に聞いてくる。

「おーっ、あるで、あるでぇ、大漁でぇ。今日は、やっと、行けるかもで」

地元の駅舎前、タバコの自動販売機の下に、僕は右手を突っ込みながら答えた。

小学校5年のある時期から卒業までの1年半くらいの間、僕とN君は定期的に、この自販機と地面とのわずか10センチ弱くらいの隙間に腕を突っ込んで、そこに落ちている小銭を回収していた。

盗んでいるという意識はない。落ちてる硬貨を拾うだけの、あくまでもただの回収。だいたい週に2回、月、木の放課後にチャリで乗り付け、地面に這いつくばって回収作業にいそしんだ。親からの小遣いが少額な僕らにとって、この小銭回収は本当にありがたかった。

「わっ、ぉー、百円玉あったど」

「まじかっ」

N君がチャリから手を放して覗きこんできた。

「バカ、ちゃんと周りをみてろって!」

泥棒してるという罪悪感があるわけではないけど、こんな行動を不審に思われて駅員を呼ばれたりしたら、それはそれで面倒だ。だったら深夜や早朝にやればよさそうなものだが、それだと本当の泥棒、空き巣になっちゃうようで気が引けた。まあ、そもそも僕らがそんな時間に起きれるわけもないのだが。

「今日はけっこうあったでー」

僕は立ち上がり、硬貨を握りしめていた手のひらをおもむろに広げる。

「おおっ」

泥の付いた数枚のコインをみてN君がおおげさな声をあげる。

「今日、行けるな」

「うん、大丈夫やな」

ここ数回の稼ぎを合計すれば目標の金額は確実に超えている。

「その前に、ジュースの販売機のほうもやっとかんと」

「そうやね、一応やっとかんとね」

どういうわけかタバコに比べてジュースの自販機は圧倒的に回収率が低かった。それでもチリツモ。積もっていけば何かが買える。

「こっちは2枚」

「上等、上等。さ、行こで」

回収した硬貨に付いていた泥を、半ズボンにこすってきれいにしながら、駅舎内の立ち食いのうどん屋さんに駆け込む。

「おばちゃん、肉うどん2つ!」

いつものおばちゃんの手に2杯分の硬貨を渡す。

たぶんおばちゃんは僕らがやってることに感づいてると思う。でも、泥付きの硬貨をみても、おばちゃんは何も言わない。「肉うどん2つね」とただ微笑むだけだ。

粗末なアルミの丼が出てくるのが待ち遠しい。

ここの肉うどんがクソうまくて、ほんと、ほんと、たまんないんだ😋

 

僕とN君は小学一年生からずっと同じクラス。放課後はいつも一緒に帰り、帰宅したらまたすぐ集合して、だいたい自転車で一緒にふらふらするのが日課のようになっていた。

お互いに一人っ子だったから、よその家の兄弟の実情がどうなのか知らないけれど、もしかすると本当の兄弟よりも一緒にいる時間は長かったかもしれない。

絵とか文章を書くのが大好きな僕は、彼に僕の作品を必ず観てもらっていた。誕生日とか特別な日には、僕は特別なストーリー漫画を作って贈ったりもしていた。もしかして有難迷惑だったかもしれないけど、N君はいつもたいそう喜んでくれた。

そんな僕らの、秘密の共同作業である自販機小銭泥棒に、ある時からちょっとした変化が起き始めていた。

(※ごめんなさい、後編に続きます)