さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

人生の半分が記憶にございません

人生の半分が記憶にございません

記憶喪失な男の話。

 

その時間、僕は誰で、何をしてんだろう😥

主食がビールだ。炭水化物はほとんど摂らない。自宅でも、外食先でも、もちろん飲み屋でも、あくまでも主になるのはビール。料理は主食のビールを引き立てるための添え物でしかない。なので料理にこだわりなんてあまりない。誰かと一緒にいるときならビールを飲んでワイワイ楽しい時間を過ごせればそれだけで幸せだし、独りのときは旨いビールに酔い痴れながらアレコレ考えているのが嬉しくて楽しくて仕方がない。

主食なので毎日飲む。かなり飲む。浴びるほど飲んでいるかもしれない。恥ずかしながらビールに僕が飲まれていることも多い。そこは本当にお恥ずかしい。💦

だいたい中ジョッキ12杯くらいまでは僕はシャンとしている、記憶もある。12杯は4リットルくらいだから、缶ビール500mlロング缶なら8缶くらいか、それくらいまでは、記憶もしっかりある。注文した料理も話した会話も店員の顔もメニューの裏面まで、微に入り細に入りはっきりと覚えている。が、そこを超えると急激に脳がふやけてしまい、記憶が吹っ飛んでしまうのだ。

ただ、記憶がないというのは、翌日になって初めてそう感じることであって、飲んでるときの僕の脳はしっかり動いている。まわりの人からみても「あなた、酔いすぎ、フラフラですよ」ということなどなく、むしろ「あなた、どんなに飲んでも変わらないねえ、というかますます元気になるね」という状態で、実にしっかり行動しているらしい。僕自身でもその時はしっかりしている自覚が、ある。そしてさらにガンガン飲み続ける。何リットル飲むんだ。そもそも何杯とか何缶とか何本でなく、リットルを単位にして数えているのがすでに尋常ではない。でも、ただただ明るく陽気になっていくお酒のようだから、他人様にご迷惑をかけることはないんじゃないかと少し安心はしている。

しかし、ほぼほぼ毎日、短くても1~2時間、長いと4~5時間の記憶を紛失しているというのはどうであろうか。睡眠時間と合計すると、一日の半分近くも記憶がない、ということになる。人生の半分が記憶にございません・・・ って、うーん、これ、どうなんだろうか。毎日12時間充分に睡眠をとっておるのだ、と考えることにしよう。人生を泡沫の夢だと思えば、少しくらいの記憶が泡のように弾けて飛んでったとしても大したことじゃないさ。身体には絶対よくないけどね。

人に迷惑はかけやしないだろうと思ってはいるけれど、やはり記憶喪失時の自分の行動にまったく不安がないわけじゃない。何かやらかしていたら嫌だなあ。飲み始めから帰宅までの一部始終を録画してみたいな、なんて思っていたら、先日、思いもよらぬ証言者が現れた。

「このあいだは、ありがとうございました」

僕が注文したビールのピッチャー(僕はカラオケ店ではいつも飲み放題にしてピッチャーを頼むのです💦)をテーブルに置くと、その若い女性店員さんは少しはにかんだ様子で僕にお礼を言った。

今日はサーブ担当なようだけど、これまでに何度もカウンターで受付をしてくれているので、彼女の顔はよく覚えている。けれど、受付対応以外には特に話したこともないし、なぜお礼なんて言ってくれるのか、まったく分からない。もちろんこのときの僕はまだ酔ってなんかない。

「えっーと、僕、何か、いたしたでしょうか?」極度の人見知りな僕は、こんなとき必ず敬語になる。

「先日、かけてくださった言葉がうれしくて」と彼女。

何をおかけしたのか、さっぱり分からないので、それとなく彼女に探りを入れてみた。彼女が教えてくれたことをまとめると、どうやら次のようなシーンがあったらしい。

・・・・

ヘロヘロに酔った僕が一人カラオケに興じていると、ピッチャーを持った彼女が部屋に入ってくる。ビールと紙ナフキンを置いて出て行こうとする彼女を僕が呼び止める。

「いつもありがとうね」酔ってるときの僕はさすがに敬語ではない。

えっ、という表情で振り向く彼女。あわてて「こちらこそ、いつもいらしてくださってありがとうございます」頭をさげる彼女。

「だいぶ慣れたねえ、働き始めて1年くらいだっけ?」

「そうですね」

「すごく楽しそうにしてるから安心したよ」

「えっ、ありがとうございます」

「最初の頃のきみは、受付が辛そうでいつもずっと暗い顔してたから心配してたんだ」

「・・・・」

「それが最近は、すごく明るくなって。とっても楽しそうにしてるから僕もなんだか嬉しくて」

「ありがとうございます」

「仕事、楽しくなったんだね」

「楽しいです」

「僕、他のカラオケ店もたくさん行っているけど、〇〇さんくらい気持のいい対応する人はなかなかいないよ」彼女の胸の名札がみてとれた。

「ほんとですか? ありがとうございます」

「〇〇さんの人間性が素晴らしいからなんだと思うよ。〇〇さんが楽しくなってほんと良かった!」

「ありがとうございます」

「応援してるね。これからもがんばってね」

「はい、ありがとうございます。またお待ちしてますね」

・・・・

キモっ! キモい、キモい、キモい、気持ち悪すぎる!😱😱 まさに「不適切にもほどがある」状態じゃないか😖

まったく記憶はない。だけど、このときの僕の脳はしっかり動いているはずなので、その瞬間は自分が発している言葉の意味を自覚しながら言っているのだろうから、ああ、それが何よりも気持ち悪いし、恥ずかしい。普段の僕とはまったく逆だ。素面の僕は、臆面だらけの、控えめな男だもの。そもそも人見知りな僕には、彼女を呼び止めて話しかけるなんてことも出来るはずがない。

なにが、仕事楽しくなったんだね? だ! 心配してたとか、なんだか嬉しいとか、人間性とか、応援してるとか、どの立場からモノを言ってんだって話だ💦

ただ、言ってることに嘘はない。新人の頃の彼女が暗い表情で辛そうだったから心配に思っていたし、それが最近明るく楽しそうになったから安心したし、なんか嬉しかったし、素晴らしい接客だなって、本当に思っていた。それはすべて真実。

よく「人は酔うと本音が出る」というけど、僕も記憶喪失中にきっと気持ちが宇宙くらい大きくなっていて、普段心に溜めていることをここぞとばかりに気持ちよく饒舌にぶっ放しているんだろう。

今回は、(行動としてはキモかったけど)少なくともネガティブな内容ではなかったので、そこはまあよかったかも(彼女も一応うれしかったと言ってくれてるし)。

お酒を飲まれる皆さん、とりわけ記憶喪失の危険性もある泥酔予備軍の皆さまにおかれましては、マイナスなこと(社会への不平不満、人の悪口陰口など)はなるべくその都度ごとに一旦忘れるようにして、心に留めておくのはなるべくならポジティブなものだけにしておきましょう。皆さまが安心して記憶喪失になられますように🫶

リッター計算でビールを飲まれる方、いつかご一緒しましょうね🍺🍻