不毛な会話(season①)
ある日、ある時の、僕と彼女のなんでもない(不毛な)会話。
不毛。それはなんの進歩も成果も得られないこと、そのさま。
「永遠のテーマとかあんじゃん?」と僕。
「男女の恋愛は成立するか、みたいなやつ?」と彼女。
「ああ、そうそう、あるな。定番だな」
「なんか悩んでるわけ?」
「あー、永遠過ぎて、頭痛え」
「そんな高尚なこと?」
「おまえ、タコ好き?」
「嫌いじゃない」
「イカは?」
「嫌いじゃないよ」
「どっちが好きだよ?」
「どっちかって言うとイカかな」
「なんで決められんだよ」
「タコの方がなんかヌルヌル、クネクネが多いじゃん。調理しちゃえばどっちも美味しいからいいんだけど。強いて言えばだよ」
「単純だ、浅はかなやつだなー」
「何? タコとイカどっちが好きかが永遠のテーマなの?」
「もう何年もずっと考えてる」
「ぜんぜん高尚じゃないじゃん。くだらなーい」
「バカ、こんな大切なこと、人生になかなかないぞ」
「別に順番つけなくても。どっちも好きでいいじゃん」
「おまえさー、奥さんと不倫相手とどっちも同じだけ好きです。決められませんって言われたらどうよ?」
「私はどっちの立場なの? 奥さん? 不倫相手?」
「不倫相手」
「そこは、奥さんだろうが! まあ、どっちにしても許せないよね」
「奥さんが作ってくれるなじみのタコ唐、不倫相手のような今朝捕れたての新鮮なイカの刺身、カッー、どっちもたまんないよなあ」
「あんた、例えがおかしいって。バカじゃないの」
「ごめん、ごめん。タコもイカも両方、唐揚げでも刺身でもどっちもめっちゃ美味いもんなあ。調理方法は関与しないんだよね」
「いや、そうじゃなくて」
「それでさ、いろいろ考えてみたんだよ。例えば、どっちと一緒に住んだ方が楽しいかとか」
「住むの? 水槽で飼うってこと?」
「タコはさ、タコ壺からウニョウニョと出てきて挨拶してくれんだろ、かわいいし。イカはシューッて泳ぐだろ、かっこいいし、見とれるよな。両者10点!」
「満点なのね」
「だからね、逆に、嫌いなところを探してみたんだよ」
「ふん、ふん」
「昔みたテレビでさ、捕れたてのでっかいタコを足から食べようとしたレポーターがいてさ、そしたらタコが首に絡んで締め付ける、足は喉の中でうごめいて窒息寸前になるわで、漁師さんに引き離してもらって助かったんだけど、レポーターはマジ死にかけてたからね、それみてタコ怖いって思ったわけ」
「怖いね」
「で、イカはさ、自分で調理したとき、イカ墨を真っ白いシャツと顔にぶっかけられてさ、この野郎って殺意がわいたよね」
「いや、あんたの方が殺そうとしてたわけだけどね」
「そういうこと思い出しても、やっぱりね、どっちも憎めないわけ。愛しいね」
「もう、あんた、海に住め」
「それでね、また考えたわけ。もしどちらかのアレルギーになって食べられなくなったとしたら、どっちのアレルギーになった方が僕は悲しいだろうかって」
「アレルギーかあ・・・」
「アナキラフィシーを覚悟しても食べたいのはどっちだ、と。カニ、エビよりは少ないけど、軟体類のアレルギーもあるみたいだからさ」
「死を賭けてまで食べたいわけ? すごいね。で、どっちなの?」
「いや、さすがにアレルギーになったらどっちにしても食べない、死にたくないし。だからまだ両者同点なわけよ」
「ちょっと格好いいと思いかけたんだけど、けっきょく、そなのね」
「タコイカ問題、国連とかで決めてくんないかな」
「タコは英語で?」
「オクトパスだろ」
「じゃあイカは?」
「・・・・・・・・・・」
「知らないの?」
「えーっと、何だっけ」
「スクイッドでしょ」
「よく知ってんな」
「わたし、帰国子女だもん。っていうか、普通、知ってんだろ!」
「そうか・・ なぁ・・・」
「これで決まりじゃない。英語名も知らないんじゃ、あんたタコ派だよ」
「ん、それで今、思ったけど、おまえ名字って〇〇〇やっけ?」
「違ーう、一文字違うよ。〇〇〇よ、最低」
「普段、名前でしか呼んでないからさ。ほら、そういうことだよ、イカの英語名なんて関係ない」
「関係あるよ」
「だって俺、おまえ、愛してるもん」
「話がおかしい🥹」
「何か食べいこうか」
「うん。バカ💞」
あー、しょうもない不毛な会話①でした。きっと②もあるよ😜
了