さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

おっさんと過ごしたドライブ・マイ・カー

おっさんと過ごしたドライブ・マイ・カー

おっさん、そうか、それが大人ってやつなんだな、って話

 

おっさんと3週間の、ドライブ・マイ・カー

「あんちゃん、免許持ってるか?」

飲み屋のカウンターで隣の席から急におっさんが聞いてきた

「はい、持ってます。取り立てですけど」

都内の大学が夏休みで、田舎に帰省したばかりだった。一緒に飲んでいた地元の友人はまだ教習所に通っている最中だった。

「いつまでこっちにおる?」

僕が夏季帰省中というのを僕らの会話から読み取ったのだろう、おっさんは手酌で日本酒を注ぎながら言った。

「一か月くらいはおると思います」

大柄な、恰幅のよいおっさんだった。年齢は40歳前後くらいか。肌ツヤが異常にオイリーで元気もりもりという感じにみえた。仕立てのよさそうなスーツを着ていた。

「わしな、学習教材の営業やっておるんじゃけど、先日免停くろうてな、車移動できんくて、今、商売あがったりなんじゃ。バイト代払うけぇ、運転手やってくれんか?」

見も知らぬおっさんにいきなり誘われて怪しさも満載だったが、みたところ反社的ではなかったし、見ようによってはどっかの社長さん的な仕事出来感もあるし、

「いや、免許取り立てで完全なペーパーですよ」と、とりあえず濁してみると、

「大丈夫、わしが言う通りに、ただ運転だけしてくれりゃええんじゃけぇ」と、なんだか大きな器っぽく言うので、僕も帰省中は暇なこともあり、じゃあやりましょか、という話になった。期間は免停が明けるまでの3週間、バイト代は当時の平均的賃金よりかなり上を約束してくれた。

あ、そういうことやったんね。人生、勉強っすわ。

さっそく翌日からバイトが始まった。田舎の道だから都内のような混んだ難しさはないが、やはり免許取り立ての完全ペーパードライバーである。僕はもう身体がガチガチ、緊張しまくり。危険な状況もけっこうあったと思う。しかしながら、おっさんはたいしたもので、あー大丈夫大丈夫、気にすんな、おおそこ左な、いい、いい。もしぶつけてもこんな車、少々壊れてもどうってことない、なんて余裕で言って僕をずいぶんと庇ってくれる。ああこの人、すごくいい人だな、と思いながら、それでもガチガチで運転していた。

初日のその日は県堺いまでのわりとロングドライブで、最初の目的地の家庭に着いたのは、お昼前だった。

社宅が並んでいるようなこじんまりとした家から、アラサーくらいの奥様と、小学生低学年の男の子と女の子の2人が出てきた。

「わしは、奥様と契約の話があるから、子供と外で遊んできてくれ」おっさんはそう言うと僕に千円札を握らせた。「子供らになんか買ってやれ。2時間くらいで戻れ」

言われたとおりに、子供たちと公園で遊び、駄菓子屋を探してお菓子も買ってやり、また散歩や鬼ごっこをして、きっちり2時間後に家に戻った。

玄関を開けたときの景色を僕は今も鮮明に覚えている。おっさんと奥様の顔は異常にほの赤く上気し、奥様の髪は最初にみたときよりも乱れていて、家中にただならぬ淫靡な雰囲気が充満していた。

えっ、そういうこと? 当時まだまだ、おぼこかった僕は、その雰囲気で初めて、ああ、そういうことだったのね、と遅まきながら気づいたのでした。

その後も、3週間の間、いろんなご家庭で僕は2時間の子守をやるはめになった。えっ、何? 僕は、なんかただデリバリー的な仕事しておるわけ?みたいな、不倫の片棒?みたいな、なんだろ、あのときの複雑な心境は。人ってこんなに何股もかけられるのかって思ったし、おっさんが仕事的に優秀であるからこんなこともできるんだろうし・・・ 大人ってこんなかぁー、って当時は思ったなあ。ただ、そのとき僕はこんな大人には絶対ならんぞと誓ったのは確かだけれども、その後20代30代に僕がどうだったかといえば、、、、人間というものはなかなか理想通りには生きられないもので💦 墓場まで持っていくお話は、また皆さんいつか内緒でお話し合いましょう😓