さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

おじさまと呼んでくれないか

おじさまと呼んでくれないか

ハテ?僕はいつどこで何を間違ったんだろか、の話。

 

そっち方面には行けないだろうなって薄々は思ってさ

おじさま、と呼ばれるような、素敵なかっこいいジェントルマンなおとなになりたかった。

たいがいの男性はおじさんにはなれる。しかし、おじさまと呼ばれるひとは極々少数ではなかろうか。上流階級の方々においてはただの叔父のことも「おじさま」と呼んだりするのだろうけど、少なくとも僕はこれまで生きてきた中で、人間の口から「おじさま」と発声された場面に出くわしたことがない。

僕なんかは、おやじ、じじい、もしかしてクソじじいとか呼ばれるようになるんだろうか。そういえば先日、飲みの席で「エロじじい!」とは言われたな。僕はいつどこから生き方を間違えたんだろう。

おじさまの髪は、何人にもけして白髪とは呼ばせないほどの威厳あるロマンスなグレーであり、ちょっと渋くワイルドな髭なんかも生やしちゃったりしている。ビジネス時の高級スーツが眩暈がするほどよく似合っちゃうくせに、プライベートのイケオジなファッションにたまらないセクシーが香る。

西に大きな商談があれば真剣に表情も厳しく、東に気の置けないパーティーがあればウィットに富み陽気で楽しく、雨にも風にも雪にも負けず、常に若々しい身体を持ち、老若男女すべてに思いやりがある、そういうものにわたしはなりたかった。

こちらがまったく意識していないにも関わらず、自然と大人男性のセクシーフェロモンが春先の花粉以上に跳び散らかってしまうものだから、多くの女性が憧れてしまう。しかし、尊敬と抑慕の気持ちが強すぎて、憧れのままただ慕い続けてくれる。

ああ、おじさまと呼ばれるにふさわしいのはそういう人だろう。無理だ、僕には百分の一パーセントの可能性もない。そんなことは子供の頃からうすうす感づいてたけどさ。

でも、どうしてもおじさまと呼んでもらいたいときの秘策は考えてある。満席で順番待ちしているお店の待機表の名前を書く欄に「小路(ふりがなオジ)」と記入するのだ。そのうち店員さんが読んでくれるだろう「1名でお待ちのおじさまー」と。さてそれで僕は嬉しいだろうか。せめてその店員さんが女性でありますように。