さくしかにきけばよくね

短編小説(私小説、たまにフィクション)風にして日常をお届けしてます

電話ミステリー

電話ミステリー

ミステリアスな電話のお話し。

泣かないで、シバハラ!

「もしもしコジマ? おれ。なんで来ないんだよ。シバハラ泣いてんぞ。早く来い。とにかく来い!」

何のことかわからず、もう一度、留守電を聞きなおした。まごうことなき間違い留守電である。この声の主とコジマとシバハラの関係はよくわからんが(何となく想像はつくが)シバハラが泣いていることは確かなんだろう。とにかくこのままシバハラを泣かせておいてはいけないと思った。

この間違いを、早く、おれと名乗る男かコジマかへ伝えなければならない。それが僕に与えられた使命だろう。しかしスマホなら掛けなおせるが、うちの安価なバカ固定電話は何の機能も付いてない😭 僕は泣き濡れるシバハラを救うべく、ひたすらもう一度間違い電話がかかってくるのを待った。しかしもう二度と「おれ」から電話がくることはなかった。シバハラは泣きやんだだろうか。こんな無力感は久しぶりだった。

家の固定電話なんてほぼほぼ休眠状態、稼働することなんて稀なのに、時々、訳のわからん留守電が残っていたりする。

「例のヤツ、ゲルマニウムでした。よろしくお願いします。ツーツーツー」

いやいやいや、わからんて。意味わかんないよ。おそらくどっか工場からの電話なのだろうが、ゲルマニウムの元素記号さえうろ覚えな僕がそういう仕事にかかわっているはずもなし。これが国家機密とかでさ、ゲルマニウムと知っただけで暗殺なんかされたらたまったもんじゃないけども、とりあえず何事もなく生かさせていただいているのでホッとしている。

高橋さんは逃亡先のマニラで・・・

以前、「高橋さん」宛ての間違い電話が頻繁に掛かってきたことがあった。最初の頃は、やわらかな女性の声で「もしもし高橋さんのお宅でしょうか?」と言っていた。僕は間違い電話を受けた時の基本マニュアルにのっとり「何番にお掛けですか?」と尋ねてから「確かに番号は合っているがもうすでにこの番号は高橋さんではありません」と答えた。そうすれば二度とこの番号に掛けてこないからだ。

しかし「高橋さん間違い電話」はその後もいろんな人から掛かってきた。最初は若い女性からだったのが、それが口調のきついおばさんになり、男になり、しまいには口調の荒いやくざ風なおっさんになっていた。

「高橋さんいる?」

「あのー、何番にお掛けですか?」

「&%$#$*&%だよっ」

「番号は合ってるけど、うちは高橋じゃありません」

「嘘つくな、このやろ」

「嘘じゃありません」

「高橋じゃないっていう証拠はあんのか」

「そんなもんないよ」

「じゃあ、おまえが高橋じゃねえか!」

「じゃあ僕が高橋っていう証拠があんのかよ」

「この番号が証拠じゃねえか」

「ふざけんなよ」

「〇▽×■◇〇◆!▲×●◇〇!!!」

 

高橋さーん、あんた一体、何をやらかしたんだ? ずいぶんとやばい橋を渡ったようだが、あんたのせいであの頃は僕も生きた心地がしなかったよ。

あの電話番号は今も誰かに受け継がれているのだろうか。もしあなたに突然「高橋さん間違い電話」がかかってくるようなことがあったら、「高橋さんは逃亡先のマニラでお亡くなりになったようです」とでも告げてください。高橋さんがなぜ追われているのか知りませんが何となく庇ってやりたい気もします。それでも頻繁に掛かってくるようならさっさと電話番号を変更することをお勧めします。